心地よい地域を保つために~恵那山麓を継ぐ者・小池菜摘

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1か月に一人ずつジバスクラム恵那のスタッフを紹介しています。
4回目の今回は、恵那山麓野菜でおなじみ・小池菜摘の登場です。
小池はこれまでに、恵那山麓野菜の代表として各所でインタビューを受け、ライターとして自身の言葉でたくさんの記事を執筆してきました。
その上で「紹介」をするにあたり、ジバスクラムだからこそ出来る、他では見られることのない小池菜摘をお届けしたいと思います。
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※スタッフ紹介シリーズはどうしても記事が長くなります。ご了承ください。

青々と茂る里芋の大きな葉と小池

■自立するため利益を求め続けた独身時代
小池菜摘、大阪府出身。経営者である父と専業主婦である母、弟と妹の5人家族で育ちました。物心ついた頃から父に経営とは何かを教わり、さらに長女として弟と妹を守りたいという思いが強かった彼女は、少しでも早く自立する力をつけたいと強く感じていたそうです。
学生時代から部活や家事をこなしながらアルバイトで経験を積み、大学では経済学部経済学科に入学。経営に興味を持っていたため商学部の授業も取りつつ、金融や株、税制について知識を深め、他大学の学生たちとのディベートも重ねました。
卒業後は東京の証券会社に入社。法人営業を担当し、一年目から奮闘。新人でも必死で動けばお客様の心を動かせるという実感を得つつ、足を使い、頭を使い、努力を続けました。そんな毎日を突如切り裂いたのが東日本大震災でした。

■震災で変わった『正解』
2年目だった小池は当時、日本株のトレーダーとして活躍していました。
電力関連の株を顧客に紹介しその動きを追っていた小池に、震災は考えもつかなかった危機をもたらしました。
また小池自身も帰宅困難者となり、自宅までの道のりを7時間かけて歩かざるを得ない状況に追い込まれました。その長い帰り道、彼女はそれまでの「利益追求こそが正義」というポリシーが打ち砕かれる光景を目にし続けました。
多額の費用をかけて作られたものが無残に壊れた姿。高級住宅街では出会えなかった、下町の方々の温かさと助け。
これまで彼女が正しいと思ってきたものは、本当に正しかったのか。「生きる」こと、「暮らす」ことに直結するものは、お金ではなかったのか。
7時間彼女は考え続けました。

この時長い帰り道を共に歩いた、同僚でのちのご主人は農家の生まれ。二人で語り合う中で、生きるため、人間として暮らすのに一番「豊かなのは」農業だという結論に至ったそうです。
そこからの動きはあっという間でした。顧客のフォローをしながらも、やりたいこととやっていることにズレが生じていた小池は、体調を崩しがちになり休職。ご主人との結婚を経て退職に至り、生まれ育った大阪に戻ります。ご主人が農家を継ぐ勉強に取り組む傍らで、彼女は幼い頃からまるでおもちゃのように触り続けてきたカメラを新たな仕事のパートナーに選びました。

青空と緑と笑顔とカメラは小池のトレードマーク

■カメラを持って移住した中津川の景色
心と体のバランスを取り戻すために始めたカメラマンとしての仕事は、小池に新たな力をもたらしました。人の暮らしや生き様をカメラで捉え、形にする。彼女が撮影する瞬間は、被写体である人のその時の気持ちや意思が伝わるものばかりでした。
彼女が着々とカメラマンとしての成果を積み重ねていた頃、ご主人の実家の農地を売ってしまう可能性が急浮上。それは困るとばかりに大阪から中津川・千旦林の地に移住を果たしました。2014年1月のことでした。
大阪、東京、また大阪と渡り歩いた小池にとって、中津川の地は未経験の塊。雪に覆われた大地を眺めながら近所のコンビニに出かけるだけの日々。カメラマンとしての顧客に出会う場所もなく、また心折れかけたその時、彼女の目に映ったのは畑の小豆でした。
とっくの昔に枯れてしまったカリカリの鞘を開くと、中には美しい赤褐色の粒。その生命力に驚くとともに、せっかく畑があるんだから何かやらなければという気持ちが芽生え、生まれた娘さんを育てながら農業を勉強する日々が始まりました。

■湧き上がる「子どものふるさと」への想い
それから小池は精力的に動き始めました。
農業を学びつつ、カメラマンとしての仕事もやりつつ、興味を持ったのはまちづくり。子どもをいつか消えてしまうかもしれない街で育てるのではなく、安心して育てたい、そんな思いでNPO法人の門を叩きます 。
その後も市役所など関係各所での勉強を重ね、自分にできることはなんなのかを考え続けた彼女。出た答えは「地域保『善』」でした。
地域を作るのでも何かを生み出すのでもなく、「これ以上悪くしない」。保って、維持する。居心地よい場所にする。そのためには拡大する方向ではなく、縮小することも考える。
ここまで想いが到達した頃、ご主人のおじい様から正式に夫婦で農地を継ぎました。2018年のはじめ、自分たちの農地を、そしてこの農村景観を守るために何をすればいいのか。彼女は使命に溢れていました。

菊ゴボウの葉を愛でる。小池がいのちに向ける視線は総じて温かい

■菜を摘むような豊かな生活を送る
そこから恵那山麓野菜を立ち上げるまで2年半。恵那山麓野菜事業は、小池が地域をより善い状態に保つために必須と考えた事業でした。
※詳しくは恵那山麓野菜ホームページをご覧ください
https://www.enasanrokuyasai.com/
この事業に参画する農家は徐々に増え、少しずつ将来の恵那山麓の景色が変わってきているように感じます。彼女の大きな目標である「地域を愛する人みんなが豊かになる=共存共栄」が叶うその日まで、きっとこれからも様々な人が関わり、たくさんの協力を得て、一歩ずつ前に進んでいくのだと思います。

彼女の名前「菜摘」には「菜を摘むような、豊かな生活を送ってほしい」というご両親の願いが込められているそうです。
菜を摘むことは豊かなこと。その意味を背負い生きてきた小池が、今まさにその豊かさを体現しています。
ちなみにご主人は「みのる」さん。生きること、暮らすことの原点がご自身の名前にあったお二人です。これからの恵那山麓を牽引するKoike lab.の、ますますの発展を祈らずにはいられません。

※次回は横光哲が登場します。お楽しみに!